2020年5月30日土曜日

パート収入と税金と社会保険の基礎知識

2020/5/30  年金改革の内容を反映

2016年10月から大きな企業でパートとして働いている人も社会保険に加入できる(せざるを得ない)ようになりました。

2022年10月からは、企業規模が501人の大企業から101人以上の中企業へも拡大され、2024年10月からは、51人以上の企業が対象となります。

社会保険料は労使折半ですから、小規模の会社にとってはかなりの負担となります。

なぜこのような改正が行われたのかについては、低収入の人たちにも将来公的年金が(より手厚く)支払われるようにしたのです。

大きなお世話と思っている人もいるかと思いますが、社会保険は保険会社の売っている個人年金保険などよりもかなり割安で手厚い保障となっていてとてもお得なのです。

では「社会保険に加入できる人」とはどのような要件になるのか、

○従業員が501人以上の企業(コンビニや大手チェーン店など)で働いている人

参考(2020年改正)
2022年10月からは101人以上の企業に適用されます。
2024年10月からは51人以上の企業に適用されます。

○今後勤務期間が1年以上見込まれる人(実績として1年以上働いているか、期間の定めがない雇用契約、あるいは雇用契約書に更新されることが書かれてある場合。)

○継続して週20時間以上働いている人(例:毎日5時間×週4日=20時間)

○賃金月額が8万8千円以上(年収106万円以上)の人

○学生ではない人(学生とは修業年限が1年以上の課程(各種学校を含む)に在学している人。6ヶ月の語学学校の生徒は学生とは認められません。)

参考
賃金月額8万8千円とは、給与から次の金額を除いた額です。
>深夜労働・休日労働・時間外労働などの割増賃金
>通勤手当・家族手当・精皆勤手当
>賞与などの臨時的なもの
例:月の給与が8万円+通勤手当1万円の場合、賃金月額は8万円だけとなります。アルバイトなどで深夜の時給が高いのは労働基準法で定める割増賃金ではありません。

このすべてに該当する人は、10月から社会保険に加入することになります。
社会保険とは、「健康保険」、「厚生年金保険」です。

参考
社会保険にはこの他に「労災保険」と「介護保険」、「雇用保険」があります。
「雇用保険」は現状でもパートの人(週20時間以上働いている人)は既に加入しており保険料が天引きされているはずです。
「労災保険」は、どんな仕事でも働き始めたその瞬間から適用(保険料は全額事業主負担)されますから、2時間だけのアルバイトで事故に遭って負傷や入院し、4日以上仕事が出来ない時には保障されます。(事業主は隠したがりますが、労働基準監督署に請求すれば何とかしてくれるはずです。)
「介護保険」は、40歳以上で健康保険または国民健康保険に加入している人(つまり日本に住んでいる人(居住者)のすべて)が第2号被保険者になります。


社会保険に加入すると社会保険料として、健康保険料約6万円、厚生年金保険料約10万円、合計約16万円(年額)ぐらいが天引きされます。(たぶん給与から毎月1万4千円ぐらいが天引きされることになります。)

参考
夫の扶養(3号被保険者)なら保険料0円で、基礎年金がもらえるので、厚生年金に入ると損した気分になるかと思いますが、国民年金(1号被保険者)の保険料が年間19.5万円もするのに、厚生年金(2号被保険者)は保険料を事業主が半分負担しますから、たった10万円程度にしかならず、しかも国民年金は基礎年金しかもらえないのに、厚生年金は基礎年金+報酬比例の年金ももらえるのでとってもお得なのです。


したがって年収が106万円を超える人については、手取額がかなり減ってしまうことになります。

この状況を踏まえ選択支は2つです。

1つは賃金月額を8.8万円(年収106万円)よりも少なくなるようにコントロールする。

もう1つは精一杯働いて、150万円以上の収入を目指す。

どちらが良いかはその人しだいです。

後述しますが、FPとしての意見は、一般の保険会社が売っている介護保険や年金保険などに月額2万円(年額24万円)も入っている人は、社会保険料16万円の方が給付が手厚く、税金も安くなりとってもお得ですから社会保険へのご加入をぜひおすすめします。(介護保険や年金保険などを解約する前提で)

各社会保険からの給付内容はこちらをご覧ください。

以上は社会保険関連の適用拡大についてですが、年収約100万円から141万円の間にさまざまな「壁」があり、よく分からない人が多いと思いますので、以下に整理して分かりやすく説明したいと思います。


1 所得税の103万円の壁

パートによる収入はサラリーマンと同様に給与所得となります。給与所得の計算式は、

課税所得=年収-給与所得控除-基礎控除38万円-その他の控除

注:住民税の基礎控除額は33万円です。

年収とは、事業主が支払った金額です。(源泉徴収票の支払金額です。)

基礎控除38万円は全ての人に一律で適用されます。

給与所得控除は年収により変わりますが、年収180万円以下の人は65万円です。

ちなみに給与所得控除の意味はサラリーマンの必要経費と考えられます。

必要経費とは、仕事をするために服や靴を買ったり、バックを買ったり、パソコンや筆記具やいろんなものを買わなくてはならないでしょうから、そのための費用として65万円を始めから引いてあげますと言う国税庁のとてもやさしい心遣いなのです。・・・そうでもないのかな?

「その他の控除」とは、生命保険料控除や社会保険料控除などですが、夫婦の場合、所得の多い人(税率の高い人)の収入から控除した方がお得になるので、パートの奥さんの収入から控除することは賢くありません。

お得情報
2017年から確定拠出年金(通称iDeCo:イデコ)の対象者が拡大され、新に公務員、専業主婦など約2600万人がこのお得な制度を使えるようになります。専業主婦の場合、毎月確定拠出年金に23,000円まで積立できるので、最高年額276,000円を所得から控除でき、103万円+27.6万円=130.6万円以内であれば課税所得は0円となります。

参考(2020改正)
iDeCoは2022年5月から加入上限が65歳未満に引き上げられます。(現状は60歳)
企業型については70歳未満に引き上げられます。

以上より、給与収入については、基礎控除38万円+給与所得控除65万円=103万円を最初から差し引くことができ、この金額を超えた額がいわゆる「所得」となり課税されるのです。

このため一般に「所得税の103万円の壁」と言われています。

一方住民税の基礎控除額は33万円なので、この金額が98万円(=65万円+33万円)となりますから、103万円の壁の前に98万円の壁がちょこっとあるのです。

例えば年収が103万円の場合、98万円の控除後の課税所得が5万円となりますから、住民税として1万円を取られます。(所得割が10%で5,000円、均等割が県と市の合計で5,000円)

参考
住民税均等割の非課税基準額として93万円~100万円が地域別に設定されていますから正確に言えば、住民税については「98万円付近の壁」ということになります。
住民税均等割はお金持ちでもそうでない人も一律(人頭税)で、都道府県が1,000円、市町村が3,000円、またそれぞれに復興特別税500円が加算され、住民税均等割の合計は5,000円となります。(横浜市など6,000円を超える市町村もあります。)


以上より、パートの年収が120万円の人の場合で税額を計算すると、

所得税の基礎となる課税所得
 120万円-38万円-65万円=17万円

住民税の基礎となる課税所得
 120万円-33万円-65万円=22万円

この所得に対して所得税5%、住民税10%(都道府県民税4%、市町村民税6%)、住民税均等割(5000円)が課税されるので、

所得税額 170,000円×5%(5/100)=8,500円
これに復興特別税が加算され所得税額は8,600円となります。

住民税額  220,000円×10%(10/100)=22,000円
これに均等割と復興特別税が加算され住民税額はだいたい27,000円ぐらいになります。

所得税が8,600円、住民税が27,000円ですから、一般に言われている所得税の「103万円の壁」よりも住民税の「だいたい98万円付近の壁」の方が家計にとっては影響が大きいのです。(住民税は、基礎控除額が5万円低く、税率が10%、しかも均等割もありますから税額が所得税よりも大きくなるのです。)

103万円は「配偶者控除」についても壁になっています。

妻のパート収入が103万円以下(つまり所得がない)の場合、夫は自分の収入から配偶者控除として38万円を差し引くことができます。

所得税10%・住民税10%とすると、38万円の20%、7万6千円だけ税金が安くなります。

妻の収入が増えて110万円(103万円から7万円アップ)の場合は、配偶者特別控除が適用され、控除額は38万円から7万円が引かれて31万円を控除できます。(税金が6万2千円安くなります。)

注意
夫の年収が1,230万円以下が配偶者控除を適用する条件です。
妻についてはパート以外の収入がないことが条件です。(あれば収入に加算される)

妻の収入が141万円(103万円から38万円アップ)になると、配偶者特別控除は38万円-38万円=0円となり適用できなくなります。


2 社会保険料の106万円の壁

  前記のとおり大きな企業でパートとして働いている人(106万円を超える人)は10月から、1年間にだいたい16万円~20万円ぐらいの社会保険料を支払うことになります。

毎月の給与から天引きされた場合は1万5千円前後が引かれることになります。

一方、社会保険料はその全額を収入から控除できますから、所得税・住民税が安くなります。

パートの年収が120万円の場合で試算すると、

所得税8,600円が400円に、住民税27,000円が17,000円ぐらいに下がります。

以上のすべてを合計すると年収が120万円の人は10月からの手取額は約14万円ぐらい減ることになります。

130万円の人の場合は約9万円ぐらい手取額が減ります。

参考
収入が143万円ぐらいになると9月以前の手取り額とほぼ同じレベルになります。(家計全体としては夫の会社からの扶養手当がなくなったりしますから、同レベルになるには150万円が目安となります。)

でもね悪いことばかりではないのです。
この改正は国民のためを思って(?)施行されたのですから良い面もあるのです。

まず厚生年金に加入することで将来もらえる年金が増えます・・・と政府は言っています。

また厚生年金には保険が付いていますから、程度の軽い傷害(3級)から重い障害(1級)になったときには障害基礎年金や障害厚生年金がもらえます。

例えば両眼の矯正視力が0.1以下になったら3級障害に該当し障害厚生年金がもらえます。(最低保障額585,100円)

細部はこちらをご覧ください。

その他に健康保険にも加入しますから、妊娠出産では出産育児一時金(約42万円)の他に出産手当金(給与の約3ヶ月分)がもらえるようになり、また病気やけがで入院・療養した場合、仕事が出来なかった(給料がもらえなかった)日数に応じてその分の給料の約67%を保障(傷病手当金)してくれるので、とってもお得なのです。

こんなに手厚い所得補償保険は世の中にありません!

細部はこちらをご覧ください。

ですから個人年金保険や所得補償保険や医療保険などに加入されている人は、この際すべての保険を解約してもよいくらいです。


3 社会保険料の壁130万円

  これまでは週30時間以上、年収130万円以上が社会保険加入の条件でした。

 これが10月より大企業に勤めるパートの人については、前記要件に該当する場合年収が106万円に引き下げられました。

したがって前記要件に該当しない中小企業にお勤めのパートの方は引き続き130万円を超えなければ社会保険へ加入する必要はありません。

でもいずれは130万円の壁が撤廃され、週20時間、年収106万円がすべてのパートの方に適用されるようになる予定です。


これまで税金や社会保険のしくみは、働く夫とそれを支える専業主婦の妻を前提として法律が作られていました。

しかし離婚したら妻の年金はごく僅かしかありませんし、女性の活用と言っても103万円を超えて働くと損をする制度となっていましたし、なにより独身者が急増していますから、これまでのしくみが時代に合わなくなって来ています。

そこで夫婦を前提とした社会のしくみを男女ともに公平に扱えるよう改善が進められています。

国の制度改革は当然良くなるところと、悪くなるところがありますが、賢い消費者としては国の制度をよく知り、最大限これを活用することが明るい未来につながります。

以上ご参考としてください。

パート収入と税金と社会保険の基礎知識(その2
(配偶者特別控除について)


保険や家計全般の見直し相談についてはこちらをご覧ください。